大分香りの博物館
大分香りの博物館は香りをテーマにした博物館です。収蔵されているのは世界中から集めた香水コレクションや希少な天然香料など約3600点。香水づくりを体験することもできます。
「大分香りの博物館」へ行ってみた!日本にたった2つの香りに特化した博物館
大分香りの博物館は香りについて深く知れる場所でした。
目次
別府駅より車で約12分
大分香りの博物館は世界でも珍しい香りをテーマにした博物館です。
天然香料の香りを嗅いだり、
香料の製造方法を学んだり、
貴重な香水コレクションを見学したり、
自分だけの香水をつくることもできるんです!
そんな大分香りの博物館の魅力を、館長の江崎さんに教えてもらいました!
日本に2つしかない香りの博物館
「香りの博物館」という名はあまり聞かないのですが、全国でも珍しいのでしょうか?
香りを扱う施設はここの他に静岡県磐田市にもう1つありますが、珍しいですね。
ここは別府大学が運営していると聞きました。
大分香りの博物館は別府大学創立100周年事業として、2007年に開館しました。
それではさっそくご案内いたします。こちらは天然香料の中でも原料素材を動物に求めた動物性香料です。4種類しかないうえに、ワシントン条約で規制されているため現在使用されているものは、その中の2種類。シベットとカストリウムにすぎません。
鼻で楽しむ香りもルーツを辿るとさまざまな物語があるんですね!展示の4種類の中で、このアンバーグリスとは何ですか?
アンバーグリスはマッコウクジラの腸内に発生する結石で、香料の一種です。クジラが絶命したあと、海に浮いていたものをアラビア人が見つけました。中国では竜の涎のように見えたことから竜涎香(りゅうぜんこう)とも呼びます。貴重なもので、もし見つけたら億万長者になれるかも知れませんね。
そんなに希少価値があるんですね・・・!
その他、こちらの展示では、カストリウム、ムスク、シベットなどの香りを嗅げます。それぞれビーバー、ジキコウジカ、ジャコウネコからとった香りです。もともとはいい香りとは言えませんが、混ぜて使うことで良い香りになってくるんです。
初めて知りました。
天然香料はほとんどが植物由来の香りなので、この4種類の動物由来の香りは貴重です。
これは一体!?
こちらは「ℓ-メントールクリスタル」といいます。
ミント・ハッカに含まれるℓ-メントールを水蒸気蒸留して抽出し、精油を縦長の缶に入れてゆっくり冷やすことで結晶が育つのです。
水晶のようでとても美しいです。
このようにふだんの生活でも馴染みの深いメントールは「植物由来の香り」に分類できます。動物由来の香りは貴重と言いましたが、300ほどある天然香料のほとんどが植物由来の香りです。
植物由来の香りって花から取れるんでしょうか?
花だけでなく、木や樹脂、苔、根っこなどから取れる香りもありますよ。
これは蒸留器ですか?
はい。天然香料の抽出に使います。釜に水と、例えばバラを入れ、火を焚いて水を沸騰させ、花の香り成分を一緒に蒸発させます。水蒸気を冷やすと最初に水に溶ける香りが入ったローズウォーターが出てきて、そのあとにエッセンシャルオイルが出てくるんです。この油が香水の香料になり良い香りなんです。
こういう方法を思いついたひとがすごいですよね。
本当ですね。蒸留器がなかったら、今みなさんが使っている香水も存在しなかったはずです。
圧巻の光景!オルガン台と呼ばれる調香台
これは・・・全部違う香りでしょうか?
たくさんの香りを台に並べて、ひとつひとつ嗅いでいくんです。そして調合していい香りをつくっていくことを「調香」といいます。
なんという迫力!
このように台に並べて調香師が調香していくのです。オルガンの形に似ているので、オルガン台とも言われます。
香水はだいたい複数の香料を混ぜてつくっているわけですね。
昔は天然香料のみでしたが、今は合成香料がたくさんありますね。合成香料は3000以上もあると言われています。調香師さんは3000種類の香りを嗅ぎ分けられるそうですよ。
そんなに多くの香りを!SF映画の超能力者みたいですね。
世界中から集めた香水コレクション
うわー、香水だらけだ!
当館自慢の香水コレクションをどうぞご覧ください。いくつかご紹介しますね。
こちらの「インペリアル」は約160年前、調香師のゲランがナポレオン3世の皇后をイメージしてつくった香水です。その後、ゲラン一家は代々、調香師を引き継ぎ、現在も香水ブランドとして人気です。
由緒正しい香りの家系なんですね。
こちらの「テンテーション」は伝説の画家パブロ・ピカソの娘パロマ・ピカソがデザインしたボトルで有名な香水です。
香水は香りの歴史だけではなく、ボトルによってアート・デザインの歴史とも紐付いているんですね。
シャネルNo.5はよく聞きます。有名ですよね。
シャネルNO.5は2021年に100周年を迎えます。今でも30秒に1本という驚異的なペースで売れているそうです。
香りと歴史の深い関係
1階は香りプロダクトギャラリーでしたが、2階は香りヒストリーギャラリーですね。
香りに関する歴史的資料やサイエンスの視点からの香りの紹介があります。
これは・・・ミイラですか?
ミイラにも、ある香りが関係しているんです。
没薬(もつやく)とは?名前からしてなんだか不気味な雰囲気です。
遺体の防腐処理を行うためにミイラに入れられていたのが没薬です。特殊な香りがすることで知られています。
没薬はミルラ(Myrrh)とも呼ばれ、ミイラの語源となった説もあるんです。
香りは人類史や考古学との結びつきも非常に強いんですね。
こちらの「コントリスの香油壺」は紀元前5〜3世紀ごろ、ギリシャで使われていたものです。古代エジプトなどでは香油は肌に塗っていました。
土器に鳥の羽が描かれています。隣の透明なガラスの瓶は、紀元前1世紀にローマで吹きガラス製法が発明されてから作られるようになりました。
こちらは紀元前2~1世紀と書いてありますが、その頃からガラス瓶があったんですね。
こういうのってレプリカとして復元したものなのでしょうか?
香油壺をはじめ、こちらの展示は全て本物ですよ。
それは驚きです!紀元前5〜3世紀の壺なのにすごくきれいに保存されているんですね。
こちらの香油瓶は、古代エジプトや古代ローマで作られていた貴重なものです。コアグラスと呼ばれる製法で作られました。美しい色ガラスの模様にもご注目ください。1本作るのに1ヶ月もかかったので王家などでしか使われませんでした。吹きガラスが発明されると作らなくなりました。
吹きガラス技術の黎明期の瓶がこんなにもきれいに保存されていて、香りだけではなく容器からも歴史を楽しめるだなんて・・・。
人類と香りって切っても切り離せないんですね。
そうなんですよ。最初にヨーロッパで香水を使ったのはハンガリーの王妃だと言われています。「ハンガリー水」という名で20世紀末まで作られ続けました。
香りと一言で言っても様々な種類がありますよね。
香りには大きく分けて7種類あると言われています。
シトラスの香りとかですか?
そうですね。シトラスはオーデコロンの主要な香りで、もともとドイツのケルンで作られました。ケルンの定番土産にもなっているほどです。
シトラス系のほかには、フゼア系、シプレ系、ウッディ系、アンバー系、オリエンタル系、フローラル系があります。分類は香料会社で異なることがあります。
香りの文化は世界でどのように広まっていったのでしょうか?
古くから、香りは神への捧げ物として利用されてきました。古代エジプトでは、神殿で香を焚き、芳香油を身にまといました。古代ギリシャでは、アロマテラピーが登場します。
ローマ人は香りを家や家具にも用いました。航海時代には東洋から珍しい香料や香辛料がヨーロッパにもたらされます。
地域によって香りの文化も異なるんですね。
ところで、江崎さんのイチオシの収蔵品は何かありますか?
こちらをご覧ください。
立派な芸術作品のようですが、これは何でしょうか?
百済金銅大香炉という作品で、韓国・百済の王の古墳から発掘された香炉のレプリカなんです。6世紀につくられたと言われています。
とても作りが精工ですね。
本物は国宝に指定され、現在はレプリカの韓国国外への持ち出しが禁止されているので、大変貴重です。
模様が特徴的ですね。
ハスの蕾の軸を龍がくわえています。龍の歯もはっきり見ることができます。蕾は上下にわかれ、花の中に香を焚く台があり、穴から香りが出るんです。空想上の動物なども表現されています。
日本独自の香りの文化。香時計や香道
日本での香りの文化はどんな感じなのでしょうか?
日本では仏教が伝来した6世紀に仏像や経典とともに香りの文化も広まりました。
仏教と一緒というのは興味深いですね。
香りが変わったのを目安に時間を判断する「香時計」というものもありました。
香りから時間を判断するのはレベルが高いですね・・・。
日本独自の「香道」という香り当てゲームもありました。勝ったほうが馬を進められて、4コマ負けたら馬から降りなければいけないそうです。
ヨーロッパの香りの文化のお話も聞きたいです。
フランスではルイ14世がヴェルサイユ宮殿を建てた際、5000人が住んでいたにもかかわらず、お手洗い場が少なすぎて悪臭がすることから、良い香りをつけるようになったと言われています。
とても面白いエピソードですね。
また、マリー・アントワネットはお花系の香りを好んだそうです。それ以前はジャコウジカから採取されるムスクが主流だったため、大きな転換点となりました。
香水も歴史のドラマの1つになっているんですね。
1年間で75億円分の香水の請求書が残っているほど香水好きな、ポンパドゥール夫人にも驚きます。
東大寺正倉院に収蔵されている香木「蘭奢待」
ここからは3階のゾーンです。日本で一番大きい香木のレプリカがあったり、調香体験ができたりします。
こちらは東大寺正倉院に収蔵されている香木、蘭奢待(らんじゃたい)のレプリカです。蘭奢待の字の中に東大寺が隠れていますよ。
香木といいますと、木から香りが出るんですか?
香木は白檀のように熱することなく香るものもありますが、香道で用いる香木は、薄片に削ったものを加熱して芳香を楽しみます。
この展示にはなにか付箋のようなものが貼ってありますね?
蘭奢待は鎌倉時代以前に日本に入ってきたと見られており、以後、権力者たちがこれを切り取っているのです。
室町幕府8代将軍足利義政、織田信長、明治天皇の3人は付箋によって切り取り跡が明示されています。
自分だけのオリジナル香水がつくれる
こちらでは調香体験を行っており、世界にたったひとつのご自身の香水をつくることが出来ます。
すごく楽しそうです!だれでも参加できるのでしょうか?
はい、どなたでもご参加いただけますよ。ただし別料金と事前予約は必要です。
どのように香水をつくるんでしょうか?
博物館では13種類の香りを用意しています。爽やかでフレッシュ系のトップノートが5種、花の香りがするミドルノートが5種、残り香とも言われるエンドノートが3種あるんです。
なるほど、そこから選ぶわけですね。
各ノートのテスターから1種類ずつ、計3種を選びます。その3種を組み合わせて20mlの香水をつくるのです。
1つ1つ香りを嗅いで、自分のお気に入りを見つけるのは面白そうですね。
子どもから大人まで、みなさんに楽しんでもらえるはずです。
丁寧に混ぜるんですね。
最後に好きなノートを10ml加えて、合計で30mlになるようにします。
自分だけのオリジナル香水の完成ですね。
もちろんお持ち帰りいただけます。
お土産も買えるんですね。
ぜひ来館の記念にお土産も御覧ください。
「REIWA」って書いてあります。
そうなんです。「PETIT TRIANON」「HIKARU GENJI」「REIWA」など、当館では毎年開催する企画展のテーマに合わせて新たな香水をつくっているのです。
ものすごい高級感がありますね。
企画展にちなみ香りも容器もこだわって制作したオリジナル香水です。「HIKARU GENJI」は複雑な香りで、翌日のの残り香も素敵です!是非嗅いでほしいですね。
大分香りの博物館は香りについて深く知れるスポットでした
大分香りの博物館は日本に2つしかない香りをテーマにした博物館の1つです。
香りは身近なものでありながら、普段あまり考えたり、学んだりする機会がありません。
貴重な天然香料や世界中の香水コレクション、香水づくり体験などを通して、香りについて深く知ることができました。
ここだけにしかない貴重な資料がたくさん展示されています。別府を訪れた際はぜひお足を運んでくださいね!
大分香りの博物館の施設情報
大分香りの博物館 公式サイト http://oita-kaori.jp/
営業時間
・博物館:10:00〜18:00
・カフェテリア:10:00〜18:00
※調香体験:要事前予約(詳細はHP)
休館日
・博物館、カフェテリア:12月31日、1月1日~1月3日
・カフェテリア定休日:日曜
※都合により休館する場合が有ります
アクセス:大分県別府市北石垣48-1
・車
別府駅より約12分
・電車
大分駅→[日豊本線4分]→別府大学駅→[徒歩15分]→大分香りの博物館
・バス
別府駅→[亀の井バス別府医療センター行き18分]→別府大学下→大分香りの博物館
取材・執筆:KOH