ウポポイ(民族共生象徴空間)
ウポポイ(民族共生象徴空間)は、アイヌ文化の復興・発展のための拠点となるナショナルセンター。国立アイヌ民族博物館と国立民族共生公園での様々な体験プログラムや展示など、知的好奇心を刺激するコンテンツに溢れています。
ウポポイ(民族共生象徴空間)を心ゆくまで満喫してきた!アイヌの世界と出会うナショナルセンター
北海道旅行の新たな目的地として注目を集めるウポポイ(民族共生象徴空間)を実際に訪れ、文化やグルメなどアイヌ民族の暮らしを追体験してきました。「これ、漫画ゴールデンカムイで見たやつだ!」の連続です。
目次
ウポポイ(民族共生象徴空間)は、アイヌ文化の復興・発展のための拠点となるナショナルセンター。
国立アイヌ民族博物館と国立民族共生公園での様々な体験プログラムや展示など、知的好奇心を刺激するコンテンツに溢れており、
代表的なアイヌ料理をたのしめるレストランなどもあります。
施設内の第一言語はアイヌ語
ウポポイ(民族共生象徴空間)をご案内します、広報課の「スクㇱチレ」です。よろしくお願いいたします!
スクㇱチレさん、よろしくお願いします! お名前はもしかして……?
そうですアイヌ語です。ウポポイの職員は皆、アイヌ民族にルーツがあるか否かに関わらず、「ポンレ」というアイヌ語のニックネームをもっています。自分自身のキャラクターや趣味を由来に、関連付けて命名しています。
それ、すごくいいですね! ゴールデンカムイのアシㇼパさんの意味が「未来」「希望」だったの、すごく心に響いたもんな……。
例えば、彼のポンレは「セタチャペ」。さぁ、いったいどんな意味が込められているか、予想してみてください!彼の柔和な表情や人柄もヒントですね。
セタ……チャペ……。「優しい・男」とかでしょうか?
残念!正解は「犬・猫」です!「セタ」が犬、「チャペ」が猫を表しています。彼は大の犬猫好きなので、名付けられました。
なるほど!犬猫さん、すごく似合っているし素敵です。ちなみに「スクㇱチレ」さんの意味は……。
「日焼け」です!命名時に日焼けで真っ黒だったので。今はだいぶ日焼けが落ち着いてきちゃったのですが……。
おお!見た目の特徴をストレートに命名する感じ、いいですね!
職員のポンレだけではなく、ウポポイの施設内はアイヌ語が第一言語。ちなみに自動販売機「イホㇰ スウォㇷ゚」は「売る・箱」という意味です。他にもたくさん面白い表現があるので、考えながら施設を見て回るのが上級者の楽しみ方です。
それはすごく興味深いです! アイヌの文化にはなかった現代の物も、アイヌ語で表現しているんですね。
ちなみに「ウポポイ」の意味は?凄く印象に残る陽気な語感なのですが。
「(おおぜいで)歌うこと」を意味しています。今日はそんな、知れば知るほど奥が深いアイヌ文化について学び、アイヌに触れるきっかけにしていただきたいです!
五感で感じるフィールドミュージアム「国立民族共生公園」
コタン(集落)にあるチセ(家)
スクㇱチレさんと漫画「ゴールデンカムイ」の話題で盛り上がりつつ、園内を散策。まずはムックリ体験をするため「コタン(集落)」にある「チセ(家)」へ向かいます。
ムックリは竹で作られたアイヌ民族の伝統的な楽器。アイヌ文様の施された半纏を着たチャッケさんに、ムックリの音の出し方を教わります。
チャッケさんがとても上手なので、糸を引っ張るだけで誰でも「ビュインビュイン」と簡単に音が鳴るように見えるのですが、そう簡単には鳴ってくれません。
まず腕をまっすぐに維持するだけでしんどいし、引っ張る方のスナップも力加減が難しい。何度チャレンジしても音がうまく鳴りません。これはかなり難易度が高いぞ……。
実際に演奏する際は、口の形を上手に変えながら音色に変化を付けて、ムックリの音を響かせます。悲しい時も楽しい時も感情の赴くままにムックリを鳴らすアイヌ民族。
チャッケさんは「降りしきる雨の音」をテーマに情感たっぷりにムックリを演奏するのが得意とのことですが、今日の演奏は「どうだ、私ムックリ上手でしょ!?」がテーマらしいです。納得!
イカㇻ ウシ(工房)
次に訪れたのは「イカㇻ ウシ(工房)」。アイヌ民族の伝統的な工芸や装飾品が展示されており、しかもその場で実際に製作している様子を、自由に見学や質問ができる施設です。
鮭の皮ってほとんどGORE-TEX(ゴアテックス)なんですよね。
鮭の皮がGORE-TEX!なんと異質な組み合わせのパワーワード!
GORE-TEXのように水を弾く効果があるので、長靴のように加工して使っていたと言います。「カムイチェㇷ゚(神の魚)」として重宝された鮭は、食べる部分以外にも捨てることなくフル活用していたんです。
この時代から、当然のようにサスティナブルな思想とともに暮らしていたのですね。
ちなみにアイヌでは、木工など手先が器用な人が異性からモテます。
足が速いとか狩猟がうまいとかではなく?
それももちろんあるかも知れませんが、アイヌ民族の女性は、手先の器用さで相手の生活力を判断していたそうです。男性は意中の女性に「マキリ(小刀)」を贈り、次の日に女性がそのマキリを腰に付けていたらプロポーズ成功のサインだったとか。
すごいロマンチックですよね! でもその場でお返事もらえないのはドキドキですね。絶対OKの時はその場で返事して欲しい……。
立派なアイヌ紋様が刺繍された着物は、祭祀の時などに着用します。和人との交流が始まってからは針を使っていましたが、それより前は鹿の角などを針の代わりに使っていましたようです。
この独特の紋様、すごく美しいですよね。デザイン的な視点からとアイヌ文化に興味が湧く人、絶対にたくさんいると思います。
「国立アイヌ民族博物館」で展示の見学とショッピングを楽しむ
続いて日本最北の国立博物館でもある「国立アイヌ民族博物館」へ。
広い空間に「私たちのことば」「私たちの世界」「私たちのくらし」「私たちの歴史」「私たちの仕事」「私たちの交流」という6つのテーマで展示されています。アイヌ民族目線で「私たち」と表現しているのが特徴です。
館内には、樺太アイヌが行うクマの霊送り儀礼「ヨーマンテ」のために装飾されたヒグマの剥製も。杭と仔グマの飾りが一緒に展示されているのが特徴です。両方とも、作る材料や道具にこだわり、各地の博物館に収蔵されている民具を調査して製作されています。
※樺太方言では「ヨーマンテ」、北海道方言では「イヨマンテ」などと言います
アイヌ民族は動植物や火、水、風、山や川などもカムイであり、カムイは肉や毛皮などを土産として人間の世界にやって来ると考えています。クマの霊送り儀礼は、クマのカムイの「ラマッ(霊魂)」をもてなして、再びカムイの世界に送り帰す儀礼なのです。
本当に知れば知るほどもっともっと興味が溢れてくるアイヌ文化。ゴールデンカムイで読んだ断片的な知識が、国立アイヌ民族博物館の展示を見て次々に繋がっていきます。そしてこの状態で再度ゴールデンカムイを読んだら、今度は反対に「あ、これウポポイで見たやつだ!」って絶対なります。
あまりハードルを高くすることなく、漫画やアニメから自然と触れていき、知的好奇心に誘われるようにアイヌ文化に接していくのってすごく理想的。
展示の見学をした後は、一階にあるショップを覗いてみます。アイヌ文化の工芸品や可愛らしいキャラクターグッズ、お土産に最適なお菓子などの食品も充実しています。
「コタンコㇿカムイ(村を守る神)」であるシマフクロウをモチーフにしたサブレ「カムイ伝説」や……。
「ユㇰオハウ(鹿肉の汁物)」と「チェㇷ゚オハウ(鮭の汁物)」がすごく気になるところです。オハウはゴールデンカムイ頻出の食べ物。具材に色々なバリエーションがあるのも大きな魅力です。
ウポポイPRキャラクター「トゥレッポん」グッズも可愛い!アイヌ民族にとって鹿や鮭と並ぶほど貴重な食料だったオオウバユリをモチーフにしたキャラクターです。
味覚フル活用で楽しんでこそのアイヌ文化
アイヌ民族について理解をより深めるためには、食文化に触れることが欠かせません。生きることは食べること。本質的な部分では同義なんですね。
代表的なアイヌ料理を求めて訪れたのは「カフェリㇺセ」。
ショップでも販売されていた「チェㇷ゚オハウ」は、カフェリㇺセの人気メニューで、チェㇷ゚は魚(鮭)、オハウは具沢山の汁を意味する、ごろごろっとした野菜がたっぷり入った一品です。
一口食べては口元が緩み、汁を一口啜っては自然と笑顔がこぼれ出します。さすがに声には出さないけれど、アイヌ語で感謝を意味する「ヒンナヒンナ」が頭の中で自動再生。
「アシㇼパさん、このままでも十分美味いんだが、味噌入れたら絶対合うんじゃないの?コレ……」と、頭の中で不死身の杉元が囁くけれど気にしない。味噌を入れなくても確実に美味いです。染み渡ります。
オハウ単品だけでなくセットメニューも用意されているので、豊かな食の恵みに感謝しながらいただきます。
カボチャの煮付けなど一品料理に使われているアイヌ特有の植物にも注目。仄かな苦味がアクセントになっていてより素材の風味を強く感じます。
車の運転がない方は、北海道のクラフトビールを楽しむのも至高のひと時。
敷地内にはテイクアウト専門のスイーツショップ「ななかまど イレンカ」もあって、食後に甘いものが食べたくなった時も安心。
ちなみに、ユㇰ(鹿肉)のローストなど少しだけ贅沢にお肉を満喫したいなら「焚火ダイニング・カフェ ハルランナ」。行者にんにくザンギ定食などのお手頃で美味しい料理を食べるなら「ヒンナヒンナキッチン炎」がおすすめ。
ウポポイは「触れる」「感じる」「考える」に加え、「食べる」という文化を理解する上で重要な要素も余すことなく体験できるのですね。
まずはアイヌ文化に興味を持ってもらうことから始めたい
人それぞれの楽しみ方ができるのが、ウポポイの魅力です。例えば「アイヌの食文化」をテーマに深く掘り下げても面白いのではないでしょうか。食文化の展示や、園内で育てている特有の植物も興味深いものがたくさんありますし、レストランでも様々なアイヌ料理が楽しむことができます。
観る聞く食べるなど、五感を最大限使ってウポポイを楽しんで、アイヌ民族に触れ興味を持つきっかけになって欲しいと、心より思っています。
オープンしてから、ずっと気になっていたウポポイ。もっと難しい内容だったり博物館の見学がメインだと思っていましたが、実際に訪れてみてその印象は完全に変わりました。
そして半日あれば充分楽しめるかな……という目論見も甘すぎることも痛感!時間が足りず伝統芸能も短編映像も鑑賞できなかったし、調理体験や刺繍体験、弓矢体験だってやりたかったのに!
ウポポイを訪れる時は時間を丸一日たっぷりとって、この際だから星野リゾート界ポロトに宿泊して、ゆったりじっくりとアイヌの世界に身を委ねましょう。
ウポポイ(民族共生象徴空間) 施設情報・アクセス
公式サイト
https://ainu-upopoy.jp/
所在地
〒059-0902 北海道白老郡白老町若草町2丁目3
交通アクセス
札幌駅からJRでおよそ60分
新千歳空港からJRでおよそ40分
JR白老駅(北口)より徒歩約10分
取材・撮影・執筆:旅路編集工房 池田 優