秋田県

横手市増田まんが美術館

秋田県横手市にある「横手市増田まんが美術館」は、1995年に開館した公営美術館です。2019年の大規模リニューアルで、国内でも珍しいマンガ原画の保存に特化したミュージアムになりました。約40万点の原画を収蔵し、文化庁事業として、国内唯一の原画保存の相談窓口となる「マンガ原画アーカイブセンター」も設置されています。

日本でここだけ!40万点のマンガ原画を収蔵する「横手市増田まんが美術館」に行ってみた

秋田空港から車でおよそ1時間。のどかな田園風景の中に、日本有数のマンガ原画ミュージアム「横手市増田まんが美術館」があります。かつての公民館が現在のような原画収蔵施設になるまでには、関係者の熱い思いがありました。広報担当の安田さんにお話を聞いてきました。


秋田県には、実は日本有数の原画収蔵施設「横手市増田まんが美術館」があるんです。

施設の歴史はマンガ家の故・矢口高雄先生抜きに語れません。横手市出身の矢口先生は「釣りキチ三平」「マタギ」など、長年にわたって秋田の風景を描き続けました。住まいは東京でしたが、晩年になって故郷への原画の寄贈を考えるようになったそうです。

しかしいま、同館が収蔵するのは矢口先生の原画にとどまりません。その理由とともに施設の見どころを、企画営業部主任の安田悠花さんから伺いました!

※文中の写真はすべて許可を得て撮影しています。館内は撮影不可の場所もありますので、現地でご確認ください。

 

40万点の原画を収蔵する「マンガの蔵展示室」

ようこそいらっしゃいました。当館は矢口高雄先生の「本物の原画を地域の子どもたちや、マンガ家を目指す人に見て欲しい」という思いから始まった美術館です。

2019年の大規模リニューアルで、日本で唯一とも言える「原画保存に特化したミュージアム」になりました。

まずは当館でもっとも特徴的な場所にご案内しますね。

わ、銀行の金庫室みたいですね!

「マンガの蔵展示室」という原画の収蔵庫です。劣化を防ぐために温度や湿度を24時間管理した部屋で保管しています。

特別な保管方法なんですか?

酸性化しないよう「中性紙」という紙を1枚ずつはさんで、さらに中性紙素材の封筒と箱に入れて保管します。照明も紫外線を含まないLEDを使用しています。

壁一面ひきだしですね! これ全部原画ですか?

原画1枚を1点と考えて最大70万点収蔵できるのですが、いま約40万点以上お預かりしています。とくに「大規模収蔵作家」の10名(※)は、数万点規模の原画をまとめてお預かりしています。

(※)矢口高雄・高橋よしひろ・小島剛夕・能條純一・土山しげる・東村アキコ・倉田よしみ・さいとう・たかを・浦沢直樹・やくみつる(敬称略)

さらに「デジタルアーカイブ」といって、原画を1枚1枚スキャンしてデータ化しています。

どこも一面ガラス張りですね。

時間帯によってはスタッフが作業する様子を見られますよ。通常バックヤードツアーでしか見られない美術館の裏側を常時公開していて、「見える収蔵庫」というのが一番のコンセプトです。

 

「マンガ文化展示室」で背景を知る

なぜ原画を重視しているのか、こちらの「マンガ文化展示室」をご覧ください。

原画と雑誌、まったく同じシーンを並べて展示してありますね。

そうなんです。原画は印刷が済めば役目を終えますが、雑誌掲載時はどうしても解像度が低くなります。雑誌だとただ黒く見える部分も、原画で見ると三平くんの麦わら帽子に細かく線が引かれていたり、草も1本1本描き分けられていたり……

本当だ! 原画だとはっきり見えます。でもいまは、デジタル作画の先生も多いのでは?

そうなんです。今後、原画はますます貴重なものになっていくと思います。実は原画の扱いは作家さんによってさまざまで、大切に保管される先生もいれば、タンスに入れっぱなしの先生もいらっしゃいます。

このほか、捨ててしまったり、人に譲ったり、原画が失われることも多いんです。

 

ジャンルを超えた作品が一堂に会する常設展

常設展示室ではシンボルツリーを中心に、74名の作家の原画を展示しています。収蔵庫には182名の原画をお預かりしているので、頻繁に展示替えしていますよ。

※展示中の作家一覧はこちら

好きな先生の原画を見つけるのが楽しいですね。注目ポイントはありますか?

やはりこれだけ多彩な先生の原画を一度に見られる、というところだと思います。海外で翻訳されて大人気の作品も多いんです。

私も秋田在住ですが、決して外国人観光客の多い県ではないですよね。

国内や県内でも知名度はまだまだなので、たくさんの方に知ってもらいたいですね。

たとえば「京都国際マンガミュージアム」に行ったお客さまが原画を見たいとなったときに「じゃあ秋田に行ったらいいよ」となって、周遊するルートができたらいいな、なんて話もしていました。コロナ禍で難しくなってしまいましたが……。

 

館内には自由に読めるマンガや小ネタがいっぱい!

こちらは「名台詞ロード」という撮影スポットです。お客さまにも台詞を選んでいただきました。

「マンガライブラリー」では自由にマンガを読めます。館内各所、合わせて2万5千冊の蔵書があります。

あれ、この男子トイレのマーク、三平くんじゃないですか?

そのとおりです! これ以外にも、気づいたら「お!」となるような仕掛けが各所にありますよ。

ミュージアムショップのマンガウォールも好評です。

吹き抜けで大迫力ですね! ちなみに人気のお土産はありますか?

特徴的なのは画材や、あとはやはりポスターですね。矢口先生の絵はインテリアとしても人気です。実は私の家にもあります!

こちらは「マンガカフェ」ですが、なんと言っても見どころは店内の「壁」です。マンガ家の先生が来館されたときに、直接描いていただく直筆のサインなんです。

え、直筆ですか!?

よく見ると鉛筆の下書きが残っていたりします。一番新しいものでは、先日まで特別展を開催していた江口寿史先生のサインがありますよ。

 

入場料はなんと無料!

驚くのが、常設展はすべて無料なんですよね!

そうです。なので気軽に立ち寄っていただければと思います。

週末には定期的にプロが教える「ペン入れ体験」などのワークショップや、マンガスクールも開講していますよ。

え! 実は私も経験がありますが、地方だと画材も買えず、身近にプロもいないのでとても大変でした。うらやましい! ここでマンガを習った子どもたちがデビューしたら嬉しいですね。

それが実現したら、とても幸せなことですね。

最後に今後の展望を教えてください。たとえば収蔵作品は増やしていきますか?

もちろんそれもありますが、当館だけではとてもキャパシティが足りません。よく館長が「仲間を増やして、原画をみんなで守っていこう」と言うのですが、全国の美術館や博物館と一緒に、国全体で貴重な原画を保護していきたいですね。

 

文化財としての原画の保護や新たな作家の育成など、熱い使命感をもって運営している「横手市増田まんが美術館」。なにより安田さんをはじめ、マンガが好きで働いているスタッフのみなさんの熱量がすごい!

秋田にお住まいの方はもちろん、県外のみなさんも横手市を訪れてみませんか? 特別企画展「クレヨンしんちゃん原作30周年記念原画展」も開催中です(2021年9月26日まで)。

 

「横手市増田まんが美術館」施設詳細

施設概要

【名称】横手市増田まんが美術館
【住所】秋田県横手市増田町増田字新町285
【電話】0182-45-5569
【備考】無料駐車場あり(180台)
【公式ホームページ】http://manga-museum.com

利用案内

開館時間 10:00~18:00(入館は17:30まで)
休館日 第3火曜日(祝日の場合は翌日)
入場料 無料(特別企画展は有料)

アクセス

自家用車 東北自動車道・秋田自動車道・湯沢横手自動車道路を経由して、十文字ICから約10分
新幹線 秋田新幹線をJR大曲駅で下車、普通列車にてJR十文字駅へ → JR十文字駅からバスと徒歩で約13分
飛行機 秋田空港からタクシーまたはエアポートライナー(乗合タクシー)で約1時間~1時間25分

 

取材・執筆:SAYA